Classiques japonais avec furigana
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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Lisez 新書太閤記 (しんしょたいこうき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 187 841 caractères · 376 écrans
見れば、この極寒、ひとりの若い士卒が、湖へ蹴落されていた。今にも凍え死なんばかり、顔も紫いろになって、アプアプ波間にもがいていた。蹴落した水夫頭は、
「泳げ、泳げッ。船と一緒に横山城まで泳いで来いッ。死に損なうのも一生の薬だ」
と、酷いことばを水面へ投げて、また大声で叱ッていた。
「どうしたのだ?」
藤吉郎が訊ねると、水夫頭は、あわててひざまずいて、
「申しわけがございませぬ。大切な御士卒を、酷い目にあわせましたが、私事の怒りで仕置はいたしませぬ」
「いや、咎めるのではない。あの兵が、どう軍紀をみだしたか訊くのだ」
「あの者は、帆綱番にございます。正しい進路をとるため、舵把りへも、帆綱番へも、何番綱張れいとか、弛めろッとか――絶えず絶えず手前から号令をかけまする。ところがあの兵は、何かぼんやりして、とかく、帆がたるみますゆえ、駈け寄って、一つ横顔を撲りつけ、なぜかと質したところ、ちょうど今、自分の生れた田舎の安土村がついそこの岸に見えたので、母親のことを思い出していたと答えますゆえ、ばか者ッ、お引揚げでも、まだ陣中であるぞ、もう戦がすんだ気になっておるのかッ――と、全軍の士気のため、またこの船の進路のため、心を鬼に持って、湖へ蹴落したわけでございまする」