Classiques japonais avec furigana
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Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
Lisez 新潮記 (しんちょうき) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 155 541 caractères · 305 écrans
「お帰りなさいますか」梅八はじっと客を見あげた、相手はそれを受けてにっと微笑した、「もうお眼にはかかれませんね」
そう云うと、寅寿は黙って頷いたが、ふと手にした笛を袋のままさしだした。
「餞別に遣わそう」「……」梅八は躊躇せず、つつましく両手で受け取った、寅寿はやはり低い声で、「鈴虫という銘だ」とそう云った。
女中たちの提灯に送られて、来たときの萩と薄の小径を通って出た。云いたいことが胸いっぱいにあったけれど、客の寂しげな沈黙に圧されて、梅八はついになにごとも云えなかった。
客は吾妻橋であがり、梅八はそのまま舟伊の桟橋まで舟で帰った。四五たびしか会わぬ客、そしてもう会う折はないと思える客、考えてみるとそれは夢のようにもはかないものだった。殊に今宵の出来事は、それを一層なにか物語めいた感じにして、いかにもつよい印象を梅八の心に刻みつけたのである。――そうだ、このままのほうがよい、お住居も御身分も知れず、お名さえもしかとは知らないままに、笛を餞別にくだすったきり二度とお眼にもかかれない、これでよかった。近づいて来る舟伊の桟橋の灯をみまもりながら、梅八は若やいだ感傷さえ覚えながらじっと笛をかき抱いていた。