Classiques japonais avec furigana
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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Lisez 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) de 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 113 247 caractères · 229 écrans
どうぞ、どうぞあれをゆるしてやって下さい」
老料理人は懐から紙片をとり出しながら言った。
「これが娘の婿の所番地でございます。どうぞ、お願いです。ここへ電報をうってこのことをよく伝えて下さい。私はこれからすぐに警察へ自首して出ます」
これらの話を、だまって聞いていた私は、悲痛と、懺愧と、自責と、悔恨とのために、いくたび昏倒しかかったか知れなかった。それにもかかわらず私は私に対する死刑の宣告のような恐ろしい告白をしまいまでだまってきいていた。あああの十分間位の長さは千年位に私には思われた。
しかしながら、最後にこの料理人が、私自身の住所姓名を書き記した紙片を、ほんとうの深尾みな子に手渡そうとした時私は、本能的に躍りかかって、その紙片をひったくり、あっけにとられている三人をあとにのこしたまま「電報は僕がうってきてあげます」と叫んで部屋をとび出したのである。
私はそれからどこをどう歩いてきたか夢中だった。まるで夢遊病者のような風で、とにかく、三時間の後に、本郷の自宅まで帰ったのである。雪子と深尾みな子との面前であの紙片にしるされた自分の名前を読まれ、私の虚偽をばらされる屈辱に堪えられなかったために、妻の死顔にもあわないで、とんで帰ったその時の私の卑劣と冷血とは……ああそれを思うと、どうしても生きていることが不可能