Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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あるたんぼうきしゃのはなし

平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕

平林 初之輔

Lisez 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) de 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 113 247 caractères · 229 écrans

Aozora Bunko

中には政府の大官や、有名な実業家や、大学教授の名前なども書きこんでおきましたよ。明日になってあの男が、あの出鱈目の名簿を手柄顔に警視庁へもって行ったら、素敵な喜劇が演ぜられるでしょう」

二人はまた沈黙した。一しきり水禽の檻のあたりでぎゃあぎゃあ啼声がきこえたが、しばらくするとまたしずまった。もう朝の三時頃であろう。町の物音もすっかり静まった。男は眠っているのか、眼をつむって安らかに呼吸している。私は眠るどころではなかった。頭を擡げて、薄明かりで時々小首をかたむけながら相手の顔を見ていた。とつぜん私の頭に今までどうしても思い出せなかったある記憶が一度に甦ってきた。

――たしか三日前の新聞だった。社会面に段ぬきでのっていたあの写真がきっとこの男の写真に相違ない。私は全身がぞっと寒くなって胴慄いした。全国の警察がいま総がかりで捜索していていまだに見つからない秘密結社の首魁が、こんなところにかくれていて、しかも、私に向かって落ちつき払って秘密を打ち開けているのだ。青年は眠っているらしい。そっと懐へ手を入れれば、この男がたったいま話した手帳が手にはいるわけだ。