Classiques japonais avec furigana
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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
Lisez 新潮記 (しんちょうき) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 155 541 caractères · 305 écrans
――これは、と寒笑は眼をみはった。客は男であり老人であり、しかも武家である。武家である証拠には(以前は帳場で預かったものだが)膝の右に大剣が置いてある。
「遠慮は無用、これへまいれ」
武士はそう云った。寒笑はかっとあがった。武家の老人などとさしで会ったのは生れて初めてである。ふだんは武士がなんだと思っているけれども、根が正直で気が小さくて、自分の卑弱なところをよく知っている男だから、いざ面と向うともうそれだけで眼がくらくらする感じだった。
自分の前へ酒肴の膳が据えられたのも、藤吉が席をはずしたのも気がつかなかった。
「別に酌はせぬから」と老武士は云った、「くつろいで飲むがよい」
「へえ、へえ戴きます、おそれいります」
「飲まぬか」
「へえ、おそれいります」
まるで夢中だった。膝をかたくして、ふるえる手で燗徳利と猪口を取ったが、あがっているから酒は猪口を溢れて膳の上へ落ちた。それでもどうやらごまかして、三杯ばかり薬でものむように啜ると、こんどは肴を食えという。で肴を食った。
――こいつはたいへんな代物にでっくわしたぞ、藤すけめひでえことをしやあがる。怨んでみても追いつかない、ただかしこまって、いわれるままに酒を飲んだり肴をつついたりしていたが、やがてそれではあんまり知恵がないということに気がついた。