Classiques japonais avec furigana
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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
Lisez 新潮記 (しんちょうき) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 155 541 caractères · 305 écrans
秀之進は仰臥したまま、蚊屋の中でじっと息をひそめていた。
夜はすっかり更けていた。もうみんな寝たのだろう、客間のほうもひっそりとしている。部屋の隅で蚊の翅音がしているし、庭からきりきりきりというような早い夏の鳴虫の音が聞えてくる。
足音はこの部屋の前でとまり、そのまま、暫く動かなかった。こちらの寝息を窺っているようすである。秀之進はふと、――江戸屋敷で校川宗兵衛に会ってゆけ、そう云ったときの左近さまの眼光が思いだされた。宗兵衛に会って水戸への手掛りを付けて貰えという申付けの裏に、実父に会わせるというもう一つの意味があった。
その時が来たのである。
父はそこにいる、障子ひとえそとに立っている、そしてこちらの寝息に耳を澄ましているのだ。秀之進はじっと闇をみまもり、呼吸をしずめて待った。
夜警の柝の音が遠くから聞えてくる。長屋の向うがわをまわり、老臣の家が並んでいるほうへとゆくらしい。……何に驚いてか、庭の虫の音がはたとやんだ。
――どうしたのだろう。
廊下はひっそりとして身動きをするけはいもない。秀之進はなにやら息苦しさを感じだした。……足音を聞いたのは誤りではなかったのか、本当に障子のそとに父はいるのだろうか、いるとすればなんのためにこのようにいつまでもこちらのようすを窺っているのだ。