Classiques japonais avec furigana
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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
Lisez 死者の書 (ししゃのしょ) de 折口 信夫 (おりくちしのぶ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 62 340 caractères · 126 écrans
実際、九百部を過ぎてからは筆も一向、はかどらなくなった。二十部・三十部・五十部。心ある女たちは、文字の見えない自身たちのふがいなさを悲しんだ。郎女の苦しみを、幾分でも分けることが出来ように、と思うからである。
南家の郎女が、宮から召されることになるだろうと言う噂が、京・洛外に広がったのも、其頃である。屋敷中の人々は、上近く事える人たちから、垣内の隅に住む奴隷・婢奴の末にまで、顔を輝かして、此とり沙汰を迎えた。でも姫には、誰一人其を聞かせる者がなかった。其ほど、此頃の郎女は気むつかしく、外目に見えていたのである。
千部手写の望みは、そうした大願から立てられたものだろう、と言う者すらあった。そして誰ひとり、其を否む者はなかった。
南家の姫の美しい膚は、益々透きとおり、潤んだ目は、愈々大きく黒々と見えた。そうして、時々声に出して誦する経の文が、物の音に譬えようもなく、さやかに人の耳に響く。聞く人は皆、自身の耳を疑うた。
去年の春分の日の事であった。入り日の光りをまともに受けて、姫は正座して、西に向って居た。日は、此屋敷からは、稍坤によった遠い山の端に沈むのである。