Classici giapponesi con furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate
お房は眠りつづけた。看護の人々も疲れて横に成るものが多かった。夜の九時頃には、私は独(ひと)り電燈の下に椅子に腰掛けてお房の烈しい呼吸の音を聞いていた。堪(た)えがたき疲労、心痛、悲哀などの混(まざ)り合った空気は、このゴロゴロ人の寝ている病室の内に満ち溢(あふ)れた。隣の室の方からは子供の泣声も聞えて来た。時々お房の傍へ寄って、眼の上の白い布を取除いて見ると、子供の顔は汗をかいて紅く成っている。胸も高く踴(おど)っている。
上野の鐘は暗い窓に響いた。
「我もまた、何時までかあるべき……」
こう私は繰返して見た。
分ち与えた髪、瞳(ひとみ)、口唇――そういうものは最早二度と見ることが出来ないかと思われた。無際無限のこの宇宙の間に、私は唯(ただ)茫然(ぼうぜん)自失する人であった。
看護婦が入って来た。体温をはかって見て、急いで表を携えて出て行った。何時の間にか家内は寝台の向側に跪(ひざまず)いていた。私はお房の細い手を握って脈を捜ろうとした。火のように熱かった。
「脈は有りますか」
「むむ、有るは有るが、乱調子だ」
こんな話をして、私達は耳を澄ましながら、子供の呼吸を聞いて見た。