Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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きゅうしゅじん

旧主人・芽生

島崎 藤村

Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate

Aozora Bunko

お新は電燈に映るコップの中の酒を前に置いて、その間には煙草も燻(ふか)した。山本さんが行って来た方の長江の船旅の話なぞは、彼女を楽ませた。山本さんと違って、そう遠慮ばかりしていなかった。

とは言え、お新は女らしさを失いはしなかった。それが反って家に居る時の若い内儀(おかみ)さんらしくも見えた。

「何をしても悪く思えない少婦(おんな)だ」

と山本さんは腹の中で繰返した。

その晩も、彼は独りで壁の方へ向いて、唯九年も前のことを夢みながら、寂しい眠に落ちて行った。

翌日も矢張同じような日を送って、四日目の朝には伊東から帰ることに成った。もし時が許すなら、山本さんは熱海、伊東ばかりでなく、もっと他の方へ、下田の港へ、それこそ大島までも、お新を連れ廻りたいと思ったが、そう自由には成らなかった。

伊東の宿で、山本さんは土地の話を聞いた。女を連れて石廊崎(いろうざき)の手前にある洞穴見物に出掛けたという男の話だ。船で見て廻るうちに、男は五百円懐中(ふところ)に入れたまま、海へ落ちて死んだ。女だけ残った。海は深くて、その男の死骸(しがい)は揚らなかったとか。この話を聞いた時は、山本さんは他事(ひとごと)とも思えなかった。