Classici giapponesi con furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate
暗いほど深い。
岡の上へ出ると、なまぬるい微かな風が黄色くなりかけた麦畠を渡って来る。麦の穂と穂の擦れる音が聞える。強い、掩い冠さって来るような叢の香気は二人を沈黙させた。二語、三語物を言って見て、復た二人とも黙って歩いた。
崖の道を降りかけて、漸く二人は笑い出した。隠居さんの小屋のあたりで、湯場の方から上って来る正木大尉の奥さんにも逢った。大尉の奥さんは湯上りの好い顔色で、子供を連れて、丁寧に二人に挨拶して通った。
浴場には桜井先生も広岡学士も来ていた。先生は身体を拭いて上りかけたところで、学士だけ鉱泉の中に心地よさそうに入っていた。硝子戸の外には葡萄の蔓も延び延びとして、林檎の植えられた畠なども見える。
「子安君はナカナカ好い身体ですネ――」
と学士に言われて、子安は随分苦学もして来たらしい締った毛脛を撫でた。
「どうです、我輩の指は」
とその時、学士は左の手をひろげて、半分しかない薬指を出して見せた。
「ホウ」と子安は眼を円くした。
「一寸気が着かないでしょう。これにはそもそも歴史がある――ベエスの記念でサ」
学士は華やかな大学時代を想い起したように言って、その骨を挫かれた指で熱球を受け損じた時の真似までして見せた。