Classici giapponesi con furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate
しかし、おせん時代のことを知っているものは、主人思いの婆さんより外に無かった。婆さんは長く奉公して、主人が食物の嗜好までも好く知っていた。
小娘は珈琲茶碗を運んで来た。婆さんも牛乳の入物を持って勝手の方から来た。その後から、マルも随いて入って来た。
「マルも年をとりまして御座いますよ。この節は風邪ばかり引いて、嚔ばかり致しております」
こう婆さんが話した。大塚さんはその日別れた妻に逢ったことを、誰も家のものには言出さなかった。
マルは尻尾を振りながら、主人の側へ来た。大塚さんが頭を撫でてやると、白い毛の長く掩い冠さった額を向けて、狆らしい眼付で彼の方を見て、嬉しそうに鼻をクンクン言わせた。
こうして家の内を眺め廻した時は、おせんらしいおせんは一番その静かな食卓の周囲に居るように思われた。おせんは夫を助けて働ける女では無かったし、殊に客なぞのある場合には、もうすこし細君らしい威厳を具えていたら、と思うことも多かった。「奥様はあんまり愛嬌が有り過ぎるんで御座いますよ、誰にでも好くしようと成さり過ぎるんで御座いますよ」と婆さんまでが言う位だった。でも食卓の周囲なぞは楽しくした方で、よくその食堂の隅のところに珈琲を研く道具を持出して、自分で煎ったやつをガリガリと研いたものだ。