Classici giapponesi con furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate
一段の媚(こび)を含んだような牝馬の声が復た聞える。源の馬は夢中になって嘶きかわした。昨日から今日へかけて主人に小衝き廻されたことは一通りで無いのですもの、人間の残酷な叱※(しった)と、牝馬の恋の嘶きと、どちらがこの馬の耳には音楽のように聞えたか――言うまでもない。牝馬は、また、誘うような、思わせ振な声で――こういう時の役に立てねば外に役に立てる時は無いといいたい調子で、嘶きながら肥った灰色の姿を見せました。声を聞いたばかりでも、源の馬はさも恋しそうに眺め入っていたのですから、愛らしい形を拝んでは堪りません。紫色の大な眼を輝して、波のように胸の動悸(どうき)を打たせて、しきりと尻尾を振りました。鼻息は荒くなって来て、白い湯気のように源の顔へかかる。
「止せ、畜生」
と源は自分の顔を拭いて、その手で馬の鼻面を打ちました。馬は最早(もう)狂気です。牝馬の恋しさに目も眩(くら)んで、お隅を乗せていることも忘れて了う。やがて一振、力任せに首を振ったかと思うと、白樺(しらはり)の幹に繋いであった手綱はポツリと切れる。黄ばんだ葉が落ち散りました。
あれ、という間に、牝馬の方を指して一散に駆出す。