Classici giapponesi con furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate
壁に高く掛けてありました細な女文字の額の蔭に隠しても、何度かその下を歩いて御覧なすって、未だ御安心になりませんのです。この小な写真一枚の置処が有ません。終には御自分の懐に納れて、帯の上から撫でて御覧なさりながら、御部屋の内をうろうろなさいました。
文箱の中から出ましたのは、艶書の束です。奥様は可懐そうにそれを柔な頬に磨りあてて、一々披げて読返しました。中には草花の色も褪めずに押されたのが入れてある。奥様は残った花の香を嗅いで御覧なすって、恍惚とした御様子をなさいました。旦那様に見られてはならないものですから、その艶書は一切引裂いて捨てて御了いなさる御積でしたが、さて未練が込上げて、揉みくちゃにした紙を復た延して御覧なすったり、裂いた片を繋合わせて御覧なすったりして――よくよく御可懐と思召すところは、丸めて、飲んで御了いなさいました。
「屑屋でござい。紙屑の御払はございませんか」
と呼んで来たのを幸、すっかり掻浚って、籠に積った紙屑の中へ突込んで売りました。屑屋は大な財布を出して、銭の音をさせながら、
「へえ、毎度難有う存じます。それでは三銭に頂戴して参ります」