Classici giapponesi con furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate
薮蚊(やぶか)の群が侘(わび)しい音をさせて襲って来る頃で、縁側には蚊遣(かやり)を燻(いぶ)らせた。蛙(かわず)の鳴く声も聞えた。家内は、遊び疲れた子供の為に、蚊帳を釣ろうとしていたが、
「父さん、どうしたんでしょう……まあ、おかしなことが有る……」
こう言いながら、ボンヤリ釣洋燈(つりランプ)の側に立った。
「私は物が見えなくなりました……」
と復た家内が言って、洋燈(ランプ)の灯に自分の手を照らして見ていた。
「オイ、オイ、馬鹿なことを言っちゃ困るぜ」私は真実(ほんとう)にもしなかった。
「いえ、串戯(じょうだん)じゃ有りませんよ、真実に見えないんですよ……洋燈の側なら何でも能く分りますが、すこし離れると最早何物(なんに)も分りません」
「俺の顔は?」
私は笑わずにいられなかった。
その時、家内は手探り手探り暗い押入の方へ歩いて行った。しばらく私もそこに立って、家内の様子を眺めていた。
「早く医者に診て貰うサ」
と私は励ますように言って見た。
翌日になると、明るい光線の中では別に何ともないと言って、家内は駿河台(するがだい)の眼医者のところまで診て貰いに行った。