Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

Leggi 松のや露八 (まつのやろはち) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 125.597 caratteri · 253 schermate

Aozora Bunko

「姐さん、大坂屋さんですよ」

やがて、座敷札がまわって来た。

使いに訊くと、

「奇兵隊の河合さん」

名ざしだと云う。

「ありがとよ」

心づけをやって、鏡のまえにもう一度もどる。

鬢掻の脚で、耳の裏を撫でつけながら、

(あの馬鹿亭主、いいあんばいに、出たっきり帰って来そうもない。河合さんに話したら、腹をかかえて、笑うだろう)

そんなことを、鏡の中の顔は、考えていそうにもなく、美しく考えていた。

いそいそと、褄をとって、出て行った。馬関の稲荷町には、黄昏が来て、宵が来て夜更けが来て、そして喧嘩やら、奇兵隊節やら、ジャンジャカ三味線やら、ゆうべと変わらない疲れた眠気が下り、霜が下りる。

お蔦は、酔って、

「いないから、いいじゃないの。――もう追ん出しちゃったんだから」

河合の手を組んで、左褄を、自暴にはしょって、稲荷裏の家へ、よろめいて帰って来た。

「なんたって、帰さないからいい。――さ、お入んなさいってば!」

だが、門口の格子へ手をかけた途端に、お蔦は、おやと、家の中へ、眼をみはった。

鉄瓶は、ちんと沸いて、行燈が、灯っているし、寝酒の二本も、いつものとおり、猫板に乗っているではないか。