Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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きゅうしゅじん

旧主人・芽生

島崎 藤村

Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate

Aozora Bunko

そんなに言う程の物じゃないんだよ。お前がよく勤めておくれだから、寸の私の志と思っておくれ。……いいからさ、それは仕舞ってお置き」

奥様はまだ何か言いたそうにして、それを言得ないで、深い歎息を御吐きなさるばかりでした。危い絶壁の上に立って、谷底でも御覧なさるような目付をなさりながら、左右を見廻して震えました。「お前だから話すがねえ」までは出ましても、二の句が口籠って、切れて了います。

「今夜私がお前に話すことは、決して誰にも話さないという約束をしておくれ。それを聞かないうちは――然しお前に限ってそんな軽卒なことはあるまいけれど」

幾度も念を押して、まだ仰り悪いという風でしたが、さて話そうとなると、急に御顔が耳の根元までも紅くなりました。

遂々奥様は御声をちいさくなすって、打開けた御話を私になさいました。その時、私は始めて歯医者とのこれまでの関係を聞きましたのです。私は手を堅く握〆られて、妙に顔が熱りました。他から内証を打開けられた時ほど、是方の弱身になることはありません。思いつめた御心から掻口説かれて見れば、終には私もあわれになりまして、染々御身上を思遣りながら言慰めて見ました。