Classici giapponesi con furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate
たようなもの、としか思われないのでした。ですから、骨肉の旦那様よりか、他人の奥様に憎悪が多く掛る。町々の女の目は褒るにつけ、譏るにつけ、奥様の身一つに向いていましたのです。
春も深くなっての夕方には、御二人で手を引いて、遅咲の桜の蔭から飛騨の遠山の雪を眺め眺め静に御散歩をなさることもありました。さあ、旧弊な御親類の御女中方は、御夫婦一緒に御花見すらしたことが無いのですから、こんな東京風――夢にも見たことの無い、睦まじそうに手を引き連れて屋外を御歩きなさる御様子を初めて見て、驚いて了いました。得たり賢しと、悋気深い手合がつまらんことを言い触して歩きます。私は奥様の御噂さを聞くと、口惜しいと思うことばかりでした。
春雨あがりの暖い日に、私は井戸端で水汲をしておりますと、おつぎさん――矢張柏木の者で、小諸へ奉公に来ておりますのが通りかかりました。
「おつぎさん、どちらへ」
と声を掛ると、おつぎさんは酸漿を鳴しながら、小肥りな身体を一寸揺って、
「これ」と袖に隠した酒の罎を出して見せる。
「お使かね」
「ああ」
「御苦労さま」
「なあ、お定さん、お前許の奥様は……あの御盲目さんだって言うが、真実かい」