Classici giapponesi con furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate
急に庭の方で、
「マル――来い、来い」
と呼ぶ書生の声が起った。
マルは廊下伝いに駆出して来た。庭へ下りようともせずに、戯けるような声を出して鳴いた。
おせんが子のように愛した狆の鳴声は、余計に彼女のことを想わせた。一人も彼女に子供が無かったことなぞを思わせた。大塚さんは納戸を離れて、部屋にある安楽椅子の後を廻った。廊下へ出て見ると、咲きかけた桜の若葉が眼前にある。麗かな春の光は花に映じている。
マルは呻くような声を出しながら、主人の方へ忍んで来たが、やがて掻き付いて嬉しげに尻尾を振って見せた。この長く飼われた犬は、人の表情を読むことを知っていた。おせんが見えなく成った当座なぞは、家の内を探し歩いて、ツマラナイような顔付をして萎れ返っていたものだ。
大塚さんはマルを膝の上に乗せて、抱締るようにして顔を寄せた。白い、柔な狆の毛は、あだかもおせんの頬に触れる思をさせた。
別れるのは反ってお互の為だ、そんなことをおせんに言い聞かせて、生家の方へ帰してやった。大塚さんはそれも考えて見た。
別れて何か為に成ったろうか。決してそうで無かった。後に成って、反って大塚さんは眼に見えない若い二人の交換す言葉や、手紙や、それから逢曳する光景までもありありと想像した。