Classici giapponesi con furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate
御独になると、奥様は総桐の箪笥から御自分の御召物を出して、畳直したり、入直したり、又た取出したりして御眺めなさる――それは鏡に映る御自分の御姿に見惚ると同じような御様子をなさるのでした。全く御召物は奥様の御身の内と言ってもよいのですから。私も御側へ寄添いまして見せて頂きました。どれを拝見しても目うつりのする衣類ばかり。就中、私の気に入りましたのは長襦袢です。それは薄葡萄の浜縮緬、こぼれ梅の裾模様、は緋縮緬を一分程にとって、本紅の裏を附けたのでした。奥様はそれを御膝の上に乗せて、何の気なしに御婚礼の晩御召しなすったということを、私に話して聞かせました。不図、御自分の御言葉に注意いて、今更のように萎返って、それを熟視たまま身動きもなさいません。死だ銀色の衣魚が一つその袖から落ちました。御顔に匂いかかる樟脳の香を御嗅ぎなさると、急に楽しい追憶が御胸の中を往たり来たりするという御様子で、私が御側に居ることすら忘れて御了いなすったようでした。
「ああああ着物も何も要らなくなっちゃった」
と仰りながら、その長襦袢を御抱きなすったまま、さんざん思いやって、涙は絶間もなく美しい御顔を流れました。