Classici giapponesi con furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Leggi 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.813 caratteri · 302 schermate
歯医者は桜色の顔を胡燵に擦りつけて、
「奥さん」
「あれ復た。後生ですから『奥さん』だけは廃して頂戴よ」
こころやすだてから出たこの御言葉は、言うに言われぬほど男の心を嬉しがらせたようでした。男は一寸舌なめずりをして、酒に乾いた口唇を動かしながら、
「酔った。酔った。何故こんなに酔ったか解らない」
「だっても御酒を召上ったんでしょう」奥様は笑いました。
「少ばかりいただいて、手までこんなに紅くなるとは」
と出して見せる。
「でも、御覧なさいな、私の顔を」
と奥様は頬に掌を押当てて御覧なさいました。
「貴方はちっとも紅く御成なさらない。紅くならないで蒼くなるのは、御酒が強いんだって言いますよ。――貴方はきっと御強いんだ」
「よう御座んす。沢山仰い」と奥様はすこし甘えて、「ですがねえ、桜井さん、私は何程酔いたいと思っても、苦しいばかりで酔いませんのですもの」
男は奥様の御言葉に打たれて、黙って奥様の美しい目元を熟視ました。奥様は障子に映る男の影法師を暫く眺めていらっしゃるかと思うと、急に御自分の後を振返って、物を探る手付で宙を掴んで御覧なさいました。恐怖は御顔へ顕れました。