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おごそかなかわき
おごそかな渇き
山本 周五郎
「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页
てくれなどと喚くしまつでした。
いまは鎮痛剤もあるが、きみのお母さんはそんな注射を欲しがりもせず、あぶら汗をかきながら、看護婦にさえ一度も苦痛を訴えなかった。こんな病人は初めてです、とその医師は云った。
「母は人に心配させたくなかったのだ」と隆二はまた呟いた、「――人に心配させたくない、人によけいな気遣いをさせたくない、これも人間だけがもっている感情だ」
海で死んだ船子の遺族たちも、不満足な慰藉料に対しても文句らしいことは云わず、亡くなった良人や息子や父のことを、悲しむ思いで心がいっぱいだったにちがいない。飾らずに云って、人間生活を支えるのは経済力、つまり金であろう、けれども死んだ船子や船員の遺族たちは、僅かな慰藉料などよりも、死んだ家族をいたみ悲しむ気持のほうが、強く深いのだ。
――うちの子方の人たちには詫びのしようがないね。
母親は死ぬまえにそう云った。三代も網元をしていて、そのあいだに海で死なせた船子たち、そしてその遺族たちのことが、死ぬまぎわまで頭をはなれなかったのだ。野獣でも親と子の死別には、自分の命を忘れて悲しむという。母の嘆きもそれと同じだろうか、いや違う、親子のつながりではない、顔を見たこともない相手のために、――それが親方と子方という関係にあるとしても、――死ぬまで申訳ないとか、いたましかっ