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おみつかんざし

お美津簪

山本 周五郎

「キング増刊号」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,158 字 · 26 页

青空文庫

「お美津さん」

という暴々しい正吉の喘ぎとが縺れた。紫色の眼の眩むような雲が、二人を取巻いてくるくると渦を巻いた。

「正さん、――正さん、……」

絶え入りそうなお美津の叫びが、正吉の耳許へ近寄って来た。正吉はお美津のしなやかな温い体を狂おしく抱き緊めた。――そしてその手触りが、段々とはっきりし始めた時、

「正さん、どうしたの、正さん!」

ひどく肩を揺りながら呼び覚まされて、正吉はふっと眠りから覚めた。――夢だった。

「どうしたのさ、こんな所へ転寝をして毒じゃないか、――辰さんが来てるんだよ、お起きな」

棒縞お召の袷に黒繻子の帯、衿のついた袢纒をひっかけた伝法な姿、水浅黄の蹴出しの覗くのも構わず淫らがましく立膝をしている女の側に、辰次郎が寒そうな顔で笑っていた。

「辰さんか。――」

「ちょいと用があってね。来る途中そこん所で湯帰りのお紋さんに会ったものだから」

「まあ火の側へ寄んねえ」

正吉は物憂げに起き直った。――お紋は湯道具を鏡の前へ置いて、耳盥へ湯を取り、白粉壺や牡丹刷毛を取広げながら、

「おまえはひどく魘されていたよ」

「――――」

「この頃寝ると直ぐ魘されるようじゃないか、きっと病気が良くない証拠だから、転寝なんかしちゃ駄目だというのにねえ」