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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页
と、ばかり書いてあった。碑は苔蒸し土にまみれ碑頭は鳥の糞に汚れて弔う人もない姿であるが、もしこの手紙が遺族の人の手に届いたならば遙かに線香でも立ててやったならばどうであろうかという甚だ奇特な書翰であった。
雅衛の祖父に儀右衛門と呼ぶ人物があったことは、村役場ではもちろん、村の老人たちも誰一人知らぬものはないのである。だから、この手紙は少しもまごつくことなく、雅衛のところへ配達されたのである。
祖母のたみは手紙を読んで、眼がくらくらとした。たみは、六十五歳になっていた。すぐ家族三人で相談し、雅衛に遠い親戚の中年の男を付添いとし、常陸国の麻生まで急がせた。二人は手紙の主を尋ねて厚く礼を述べ、その案内によって祖父儀右衛門の墓に詣でた。墓は湖畔の枯蘆のなかに、遠い幕末の夢を結んでいた。近くの寺から僧を頼み、経をあげて貰ったのである。香烟が、低く冬の湖の水の上を流れた。
雅衛は、祖父儀右衛門がどんな死に態をしたのであるか、麻生の町の古老を、あちこち訪ねて問うたけれど、それは皆目知る人とてはない。ただ、それだけで雅衛は沼之上の家へ帰ってきた。
明治三十五年、雅衛は二十二歳のとき、利根川の上流末風村から、みよと呼ぶ十七歳の若い花嫁を迎えた。