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あわもりものがたり

『たぬき汁』以後

佐藤 垢石

佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页

青空文庫

食べもの

私は、この三月七日に、故郷の村へ移り住んだ。田舎へ移り住んだからといって、余分に米が買えるわけではなし、やたらに野菜が到来するわけではない。

近い親戚の人々や、家内の者と相談し、麦は今年の秋から、稲は来年の夏から、蒔いたり植えたりすることにして、まず手はじめに屋敷の一隅と屋敷に続く畑へ野菜を作ることにした。つまり、帰農のまねごとというのであろう。

しかしながら、野菜といっても愚かにならぬ。人間は、野菜なくして一日も生きていけないのだ。魚獣の肉はさることながら、この一両年、青物が甚だ好物になった。殊に家族の者共は菜っ葉大根を愛好し、香の物といえば、舌鼓打って目もないほどだ。

私の家も、先祖代々百姓である。私の代になってから、故郷を離れ文筆などというよからぬ業に親しんで、諸国巡歴に迷い出たが、中学時代までは鍬も握り、鎌も砥いだものである。だから、全く耕土を持たぬわけではなかった。

上手ではないけれど、うねも切り、種ものも指の間から、ひねりだせる。

第一着に、屋敷の一隅へ鍬を入れたのが、三月中旬である。それから五月中旬までに、蒔いたり植えたりしたものに、時なし大根、美濃わせ大根、甘藍、里芋、夏葱、春蒔白菜、春菊、胡瓜、唐茄子、西瓜、亀戸大根、山東菜、十二種類、なんと賑やかではないか。