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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页
「そうかね」
といっただけであったが、二人の顔には暗い表情が掠め去った。
沼之上の農村は、利根川と烏川と合流する三角州の上に群がっている。賢彌の家は東に利根の河原へ続き、南方には烏川が西から東へ流れて遠く明るい見晴らしを持っていた。西川渓谷が赤谷川へ落ち込み、赤谷川は大利根へ合流し、利根川はさらに流れ流れて三十里の下流、賢彌の家に近い岸を洗っている。
その後、なにごともなく夏が過ぎ秋がきた。爽やかな風が吹く十月下旬の陽が、遙かに西方信州境の荒船山に落ちて間もないある黄昏のことである。秋は空気が澄んでいたためであろうか、陽が落ちて夕暗が樹かげや、家のかげから忍び寄ってきても、路行く人の顔は、はっきり見えるものである。賢彌は読書に飽きて庭に立ち、ぼんやり門のそとをながめていた。
ところが、門のそとの路を東から西の方へ往く若い女の姿が、映画の一駒が瞬間に銀幕を過ぎるように、賢彌の瞳に映ったのである。記憶のある美しい女の横顔。
――そうだ、法師の女――
賢彌のからだは、細かく顫えた。だが、賢彌の足は門のそとへ向かって走っていた。女のうしろ姿を見ようとして、門の廂の下に立ったけれど、黄昏の路上に人の姿はなかった。