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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

たぐい稀な勝ち気で、男の子とよくつかみあいの喧嘩をし、多くの場合おりつが勝った。負けても泣くことなどはない、涙をこぼしながら歯をくいしばっている、というふうであった。

――炭屋の裏の鬼っ子。

などと、近所の男の子たちはからかったものである。けれども、弱い子や貧乏な家の子などは、よく庇ってやり、面倒をみてやるので、町内の親たちの評判はよかった。

――すっかり女らしくなったな。

と茂次は思った。十八という年より、いまのおりつは二つほどふけてみえる。小柄な躯つきや、あさぐろい肌や、眼の大きなところは昔のままのようであるが、ぜんたいに柔軟なまるみと艶があらわれているし、なにげない身のこなしや眼もとなどに、いきいきとしたいろけが感じられた。

「あら」とおりつが急に云った、「聞いていらっしゃらないんですか」

茂次は眼をそらしながら、「聞いたよ」と云った。

「わけはわかったが、むりだ」と彼はぶっきらぼうに続けた、「おれはこのとおり裸になっちまったし、うちをやり直すだけで手いっぱいだ、おめえだって子を持ったこともないのに、あれだけの者を育てるなんてむりなはなしだ」

「だってそんなに手はかかりゃしませんよ、現に今日までやってこられたんですもの」