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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

こっちが火災でやられたあとであるし、魚万でもその事情は知っている。ここは手付の金を返してあやまるほうがいい。それが順当だと云った。

茂次は「おやじもそうするか」とかれらに訊き返した。

「しかし」と大六が云った、「いまは棟梁の代じゃあない、棟梁はもう亡くなった人だし、若棟梁は高輪やあべ川町はじめ、同業のつきあいまで断わんなすった、助け手といったら木場の和七ぐらいなもので、それで棟梁の代と同じようにやってけると思うんですか」

「おれはそんなこたあ云わねえ、ただ、こういう場合におやじもあやまるかどうか、って訊いてるんだ、あやまると思うか」

「そりゃ、けれども事情てえものがまるで違うから」

「そんならどうして普請を請負った」と茂次は云った、「火事でまる焼けになりおやじも死んだ、そんな中で三つも大きな普請を請負うなんて、初めからむりなこった、おれに云ってくれれば断わったんだ、高輪なりあべ川町なりに肩替りをしてもらい、まずひとおちつきしてからのことにしただろう、けれども、――留守のおめえたちは大留を立て直す一心で請負った、その気持がわかるからむりだとは思ったがなんにも云わなかったんだ」