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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

十一

長屋のほうはすぐ近くの松枝町で「大留」の仕事ではないと、大六たちに反対されたが、家がなくて困るのは長屋に住む人間だ、と茂次ははねつけた。

明神下と岩槻町があがるとすぐに、茂次は二百両持って「福田屋」へゆき、借りた内金に入れてくれと云った。久兵衛は受取らなかった。そういそぐ必要はないし、返すなら五百両そろえて返してくれ、と久兵衛は云った。茂次はちょっと考えていたが、預けた看板の包を出してもらい、その中へ二百両を包んで「このまま預かっておいて下さい」と云って渡した。

「だが、――」と久兵衛は不審そうに訊いた、「当分はまだ金が必要じゃあないのかい」

「気がゆるむといけねえから」と茂次が云った、「まあ、緊めてやってゆくつもりです」

そして、茂次はてれくさそうに、立ちあがった。

十一

大晦日と三ガ日を休んだだけで「大留」には暮も正月もないようであった。吉川町の普請はできる限り手を集めてやったが、暮いっぱいには仕上らず、そのため茂次は元旦に休んだだけで、二日から正吉と松三を伴れて普請場へかよった。大六や助二郎たちは知らなかったろうが、左官屋や建具屋などの仕事で、自分たちに手伝えることをなんでもやった。