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ちゃん

ちゃん

山本 周五郎

「週刊朝日別冊陽春特別読物号」朝日新聞社、1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,377 字 · 45 页

青空文庫

と良吉が云った、「びっくりするぜ」

「ご同様だ」

「今日は休んだのかい」

「そんなようなもんだ」と重吉は水瓶へ蓋をし、その上に柄杓を置きながら云った、「本所の吉岡さまへ注文を聞きにいって、そのままうちへけえって来たんだ」

「かあちゃんは」

「おつぎと問屋へいったらしい」

「湯へいこう、ちゃん」と良吉は流しの脇からたわしと磨き砂の箱を取りながら云った、「いま道具を洗って来るからな、こいつを片づけたらいっしょに湯へいこう」

「お芳がいるんだ」

「留守番さしとけばいいさ、すぐだから待ってなね」

六帖へ戻るとすぐ、亀吉が隣りの女の子を伴れて来、お芳といっしょに遊び始めた。隣りのおたつは五つ、亀吉は七つであるが、どちらもお芳に牛耳られていた。おまんまごとになれば、かあたんになるのはお芳ときまっていて、おたつはその娘、亀吉は「手のかかってしゃのない伜」ということになる。それでふしぎにうまくゆくし、お芳のかあたんぶりも板についていた。

「さあさ、ごはんにしましょ」とお芳が面倒くさそうに云う、「今日はなんにもないかや味噌汁でたべちゃいましょ、さあさ、二人とも手を洗ってらっしゃい」