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ちゃん

ちゃん

山本 周五郎

「週刊朝日別冊陽春特別読物号」朝日新聞社、1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,377 字 · 45 页

青空文庫

冗談じゃねえほんとだ、と良吉は口をとがらした。帰りに東屋へ寄ろう、今日は儲かったんだ、本当だぜ、ちゃん。まあいい、おれはさっき一と口やったんだ、と云いながら、重吉は喉が鳴るように感じた。まだ時刻が早いので、男湯はすいていた。ざっとあびて出よう、と良吉が云い、そうして彼は父親の背中をさすってやった。

「へんなことをきくけれどね、ちゃん」と背中をさすりながら良吉はいった、「お蝶さんていうのはどういう人なんだい」

重吉の肩がちょっと固くなった。

「お蝶さんって、――どのお蝶さんだ」

「おとわ町で呑み屋をやってる人さ」

「それなら、どういう人だってきくことはねえだろう、その呑み屋のかみさんだよ」

「ただ、それだけかい」

「ただ、それだけだ、もう一つ云えば、勘定が溜まっているくらいのもんだ」と云って重吉は調子を変えた、「――良、どうしてそんなことを訊くんだ」

良吉は声を低くした、「本当にそれだけならいいんだ、おれ」と彼はそこで言葉を切り、それから考えぶかそうに云った、「――かあちゃんが心配しているもんだから」

「そうか」と少しまをおいて重吉が云った、「そいつは気がつかなかった」