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ちゃん

ちゃん

山本 周五郎

「週刊朝日別冊陽春特別読物号」朝日新聞社、1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,377 字 · 45 页

青空文庫

「いやだぜ親方、喜助だっていってるじゃありませんか」

「ああ、喜助さんか、――宇田川町だな」

「まあ、注ぎましょう」喜助は酌をした。

それから喜助が酒のあとを注文したのだ。それは覚えている。おくにが来て、重吉のひどく酔っていることを認め、もう飲まないほうがいいといった。重吉は財布を出し、そこで源平が来て、ちょっとやりあった。源平は中っ腹なようなことを云い、重吉は財布を投げだして、立ちあがった。

「くそうくらえ、おらあこの人と泥棒になるんだ」と重吉はどなったのだ、「こうなったら泥棒だってなんだってやるんだ、押込みだってやってやるから、みてやがれってんだ」

それは外へ出てからのことかもしれない。喜助がしきりになだめ、二人はもつれあって歩いていた。重吉はひょろひょろしながら、女房のお直を褒め、良吉を褒め、おつぎを褒め、亀吉をお芳を褒めた。みんなを自慢し、褒めながら、自分をけなしつけ、卑しめ、ついでに喜助のこともやっつけた。

「なっちゃねえや、なあ」重吉は相手の肩にもたれかかりながら云った、「おめえもおれもなっちゃいねえ、屑みてえなもんだ、二人ともいねえほうがいいようなもんだ――おれにさからうつもりか」