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つばくろ
つばくろ
山本 周五郎
「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页
そのとき相手はつぶてのように斬り込んで来た。少しも声をあげない、息を詰めて、殆ど捨て身の動作で、遮二無二斬り込み、斬り込み、そして斬り込んだ。
――あ、そうか。
高雄は樹立の中へとびこみながら、思わず心にそう叫んだ。そうだ、その人間のほかに自分を覘う者はない、彼だ。こう思い当ると高雄はとつぜん激しい怒りにおそわれた。
「わかった、森三之助だな」
彼がそう叫ぶと、相手の躯が戦慄するようにみえた。高雄は自分の声に自分で闘志を唆られ、颯と明るい路上へとびだした。
「卑怯者、そんなにおいちが欲しいならやってみろ、そうむざむざと斬られはしないぞ」
相手は呻きごえをあげた。絶体絶命と思ったらしい、やはり声はださなかったが、まるで逆上したように突込んで来た。
――斬ってやろう。
高雄はそう思った。だが、次の刹那に、相手が激しくのめって、顛倒した。どこか骨を打つような音が聞え、刀が手から飛んだ。すぐはね起きるふうだったが、どうしたのか、そのままがくっと地面に伏し、苦しそうに足を縮めて喘いだ。
そのみじめな姿を見たとき、高雄の怒りは水を浴びたように冷めた。
――逃げろ、今なら逃げられるぞ。