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つばくろ

つばくろ

山本 周五郎

「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页

青空文庫

七

という古曲で、きわめて優雅なものであった。

七

彼女の琴が終るのと殆ど同時に、高雄の自宅から使いがあった。いそぎの用事らしいので、中座の詫びをして帰ってみると、大助が急病で医師が来ていた。

大助は夕方から激しい発熱で、ひきつけたようになり、嘔吐と下痢が続いた。

「九分まで助からぬものと思って下さい」

医師はそう云って、その夜は朝まで付いていてくれた。明くる日になっても大助は昏睡状態で、吐くもののなくなった嘔吐の発作と、水のような下痢が止らず、高雄の眼にも望みはないように見えた。

一睡もしなかったが、役所にやむを得ない仕事があったので、早く登城して、午前中で帰ってみると、猿ヶ谷から松助が戻っていた。例月より少し早いが、用事があったので来たということであった。……彼は大助が絶望だと知ったのだろう、蒼い顔で、眼を泣き腫らしていた。そして高雄の昼食が済むと、声をひそめて、

「奥さまを御看病に呼んであげて下さいまし」

こう云った。高雄は驚いて彼を見た。充血した松助の眼は、思い詰めたようなけんめいな色を湛えていた。高雄は首を振った。

「――いけない、二度と云うな」

そしてすぐに病間のほうへ立った。