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つばくろ

つばくろ

山本 周五郎

「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页

青空文庫

三

「あのちばめだいたんのだね、たあたま」

「うん大さんのだ、そしてこれからはずっと毎年やって来るよ」

「だいたんのだかだだね」

「そうだ、大さんの燕だかだだ」

良人の軽い口ぶりを聞いて、おいちは声をあげて笑いだし、大助に激しく頬ずりをしながら、そして噎るように笑いながら去っていった。

三

もちろんそれで事が解決したわけではない、彼の胸にできた傷は絶えず痛み、時をきってするどい苦痛におそわれる。夜の眠りは浅いし、無意識に溜息をついたり呻きごえをあげたりした。ふとすると兇暴に妻を責める空想に耽っていることもあり、なにもかも投げだして山へでも逃げたいと思うこともあった。

これらは生れて初めての経験であって、その苦痛の激しさと深さはたとえようのないものであった。

――だがこの苦しさには馴れてゆけるだろう。

彼はそう思った。人間はたいてい悪い条件にも順応できるものだ、辛抱づよいことでは彼は自信がある。自分が苦しむだけで済むなら、それで誰も傷つかずに済むなら、必らず耐えぬいてゆけると思った。

――残る問題はおいちの気持だ。

相手は森三之助だという。かれらがどうして知りあい、どこまで深入りしているのか、相手はとにかくおいちはどう思っているのか。