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つばくろ
つばくろ
山本 周五郎
「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页
四
高雄は刀を持ったまま走りだした。
四
紀平高雄の弱気は知らない者はなかった。吉良節太郎とはごく幼ないころから、誰よりも親しくつきあい、互いに深く信頼しあっていたがその吉良でさえ彼の弱気にはしばしば疳を立てた。近ごろでは諦らめたようすで、そんなことがあっても、相変らず紀平らしいな、こう云って苦笑する程度だが、以前はよく怒って意見をしたものであった。
的場跡から家へ帰ったとき、彼はもうすっかりおちついていた。むしろ異常な昂奮のあとの、しらじらと哀しいような気持であった。けれども着替えをしたとき、脱いだ物をたたんでいたおいちが、あ、と低く叫ぶのを聞き、なにげなく振返って、おいちの手にある袴を見た刹那に、再たび怒りがこみあげてきた。
袴の腰下が横に一尺ばかり切れていたのである。高雄はやや乱暴に着物を取ってひろげてみた。着物もその部分が切れていた。
――なんというやつだ。
高雄は激しい怒りのために息が詰りそうだった。おいちも震えていた。およそ事情を察したのだろう。ひろげた袴の上へ手をついて、頭を垂れたまま震えていた。
「おれは闇討をかけられた、誰が闇討をしかけたか、おまえにはわかっている筈だ、おいち」