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ひやめしものがたり
ひやめし物語
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,861 字 · 31 页
「或るむすめをみそめちゃったんです」
「大四郎さん」椙女は思わず仏間のほうを見た、「あなたそんな不作法なことを仰しゃっていいんですか、お位牌が聞いておいでですよ」
「それでどうしたらいいか、御相談にあがったんです」
彼は別に衒れもせずに云った、「考えてみると私も二十六になったし、もう嫁を貰っても早すぎはしないと思うんですが」
「それは早すぎはしませんとも、けれど……」
椙女はここでちょっと言葉に詰った、大四郎の考え方はごく自然だし、自分もついそれに乗ろうとしたが、四男坊の冷飯ということに気づいてはっとしたのだ。
「けれどって、……いけませんかね」
「そのことはいけなくはないけれど、ちょっと嫁に貰うというわけにもいかないでしょう」
「どうしてです」こう云ってから、彼は母の表情ではじめてそのことに気がついた、「ああそうか、冷飯でしたね」
「粂之助さんが分家しているし、そのうえあなたに分けるということもむずかしいでしょう、でも、その方はどういうお身の上の人なの」
「まったく知らないんです、ただ時たま道でゆき会うだけですから」
「縁組のできるような方だといいけれどね」
椙女はこう云ったが、慰めにしても希望のもてない言葉つきだった。