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ひやめしものがたり

ひやめし物語

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,861 字 · 31 页

青空文庫

四

風で鶴ばかり折っているんですね、どの医者にみせても気鬱という他にみたてがないというわけです」

「それを膈(鶴)の病いというんだ」こんどは又左衛門が冷やかした、「胃の腑に癌の出来るやつさ、藤蔓の瘤をやぶれば治る」

「みんなだんだん心配するんですがわからない、そのうちにいつも供をして出る下女が感付いたんですね、それとなく当ってみると間違いない、そこで下女がひそかに四郎を捜し始めた、精しく話すとこの辺は、涙ぐましいところなんだが、とにかくかなりな日数をかけてとうとう突き止めたんです、十日ばかりまえにうちへ寄ったことがあるな、四郎」

「風が吹いた日でしたっけかね」大四郎はこう云って、いつもの古本あさりの帰りに、中村の表を通りかかったので立寄ったこと、そのとき土塀の際にある山椿が、血のように赤く咲き競っていたことを思いだした。

四

「下女は武蔵ヶ辻から跟けて来て、四郎がうちへはいるのを見届けて帰った、そして娘の母親にあらましの事を話したんです、どんないきさつがあったかわからない、一昨日、その娘の兄が私の役部屋へやって来て、こういう若君がうちにいるかと訊く、いない、いやいる筈だというんで、考えてみると四郎なんですね、どうかしたのかと訊き返すと、自分の妹を嫁に貰って欲しいというわけです」