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ひやめしものがたり

ひやめし物語

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,861 字 · 31 页

青空文庫

やがては中井の叔父のように、ここで鬱陶しく一生を終るだろう、といったふうな、やりきれないもの思いに閉ざされたりした。

然し、そんなことは長くは続かなかった。元もと暢気なたちだし、年の若さがそんな薄暗い考えにいつまでも執着させては置かない、彼はまた古本あさりに出歩き始めた、ただ要慎して片町通りへは近づかなかった、そっちにはごく心安くしている古道具屋があって、彼のために古書類を特に買い集めていて呉れる、たいてい下らない物だが、時には珍しい物もあるし、出して呉れる茶を啜りながら、詰らない道具の自慢ばなしを聞くのも面白かった。

――私は擬い物やこけおどしな品は扱いません、金を儲けるにはそのほうが早みちでございましょうが、性分でどうも筋の通った物でないと手に取る気にもならないんでございます、此処にあるこの茶壺などは貴方……。

こんな風に云って、恐ろしくひねこびた、土釜の化けたような物を、大事そうに捻くってみせたりする。欲の深いくせに人が好くて、自分はたいそうな目利だと信じているところに愛嬌があった。大四郎はふとするとその店のほうへ足を向ける、また自慢ばなしでも聞いてやろうという気になる、然し武蔵ヶ辻まで来ると娘の姿を思いだすので、渋いような顔をしては道を外れるのだった。