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やぶからし
やぶからし
山本 周五郎
「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页
と思いつめていたことだけである。
――死んでしまおう、そのほかにどうしようもない。
殆んど世間を知らず、十六といってもおくてのわたくしには、ただもうあの方が怖ろしく、あの方かられるためには、死ぬよりほかにみちはない、としか考えられなかったのだと思う。
裏のどこかで、車井戸の音が聞えた。わたくしはそっと立ちあがり、次の間へいって、斎藤夫人の揃えておいてくれた着物に着替えた。海へゆこうか、それとも山にしようか。そんなことをひとごとのように思いながら、静かに廊下へぬけだした。
そのまま忍び出るつもりだったが、薙町の家とは違って構えも大きく、わたくしは来たばかりで、どこから出たらいいのか見当もつかなかった。およその勘だけで廊下を曲ってゆくと、若い女中が雨戸をあけてい、姑のさち女が庭を眺めていた。雪景色を見ていたらしいが、わたくしが気づくと同時に、ふっと振向いてわたくしを認め、びっくりしたようなお顔で、いそぎ足にこちらへ寄って来られた。
「まあ早いこと」とおかあさまが仰しゃった、「もうお起きなすったんですか」
細いきれいなお声と、劬りのこもったまなざしを見たとき、わたくしは夢中でおかあさまの胸にすがりつき、すがりついた手に力をいれて泣きだした。