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やぶからし

やぶからし

山本 周五郎

「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页

青空文庫

わたくしはそう思った。ゆうべの経験と、おかあさまの話しぶりとで、女の本能といったふうなものがなにかを感じ取り、ゆうべのことと、おかあさまの考えていることとは違っている、そうではないのだ、と思ったけれども、それを口に出して云うちからはわたくしにはなかった。

「これからも心配なことやいやなことがあったら、遠慮なくわたくしにそう仰しゃい」とおかあさまは続けた、「わたくしには初めから、すずさんが本当の娘のように思えていたのよ、あなたもわたくしを実の母だと思って下さるかしら」

わたくしはおかあさまの膝を濡らしながら、声が出ないため、力いっぱいそのお膝にしがみついた。

その日は昏れるまで、自分の部屋をととのえるのにかかった。おとうさまに御挨拶したほかは誰とも会わず、食事もしなかった。あの方は朝食のあと外出をしたようで、夕餉にも帰らず、十時ごろだろうか、わたくしはおかあさまのゆるしを得て、自分の部屋で寝た。躯も気持も疲れきっていたのだろう、あの方の帰るまで眠ってはいけないと思いながら、横になるとまもなく眠ってしまい、明くる朝おかあさまに起こされるまで、なにも知らずに熟睡した。