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やぶからし
やぶからし
山本 周五郎
「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页
――なんという悪い女だったろう。
わたくしは自分を恥じ、自分を責めた。けれどもまた、よくよく考え直してみると、そう思うのはむしろ僭上だという気がした。祝言の夜の寝所で、あの方がわたくしに与えたものは愛でもなさけでもなかった。結婚についてわたくしがなにも知らなかったことは、わたくしの罪ではない。もともとおくてだったし、養家ではもとより誰も教えてくれる者がなかったので、ただもう、殺されるのではないか、という恐怖におそわれたのはやむを得ないことだったと思う。放蕩をしつくしたあの方には、わたくしがなにも知らないということはすぐわかった筈だ。それならもっと愛情と劬りとで、やさしくみちびいてくれなければならないだろう。あの方にはそんな感情はかけらほどもなかった。恐ろしさのためにおののきふるえているわたくしを、酔にまかせて殴りつけ、「けだもの」といって罵った。
――いいえ、自分は悪い女ではなかった。
わたくしはあの夜半のことをよくおぼえている。あの方はわたくしをさんざんに打ち、わたくしを裸にして、女はけだものだと、繰り返し辱しめた。そうしてまた酔って、こんどは自分のぐちを云いだした。