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ゆうれいかしや

ゆうれい貸屋

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,320 字 · 42 页

青空文庫

それからようやく思いつき、久しくあけたことのない仏壇をあけた。中には父母の位牌がある、そのほか貧しいけれども仏具がひと揃い、めくら書きのハンニャ経などが埃にまみれている。埃を払うのは面倒くさい、彼は残っている小蝋燭をともした。線香のかけらに火をつけた。

「なにしろ死んだ者には、お経がなによりのくどくだてえからな、これならあいつも喜ぶだろう」

御存じがないかもしれない。めくら経文というのは判じ絵のようなもので、経文がみんな絵で画いてある。ハンニャハラミタ、これが絵解になっているので、――見本がないとおわかりがないかもしれないが、――仮名も読めない人に読むことができるわけだ。弥六は仏壇の前に坐って、亡くなった母親の読みぶりを思いだしながら、このめくら経をつかえつかえ読みだした。

怠け者の彼としては、よほどしんけんだったわけだが、ところでそれがいけない、全然いけないのである、自分では経文を読むつもりなのだが、口から出る言葉はまるで違う、お経文などとは縁もゆかりもない言葉が出てくる。

「――さまと寝る夜は、片手が邪魔よ」

こういうことになる。弥六はびっくりして、眼をこすって、咳をして続みなおす。