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ゆうれいかしや
ゆうれい貸屋
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,320 字 · 42 页
「いや済まねえ、あれを聞かれちゃあ合わせる顔がねえ」弥六は頭を掻いて閉口した、「おらあちゃんと読むつもりだった。おふくろのを聞き覚えていたし、読まされたこともある、読めねえ筈はねえんだがいけねえ、どう読んでも妙竹林な端唄みてえな文句になりあがる、面目ねえ、勘弁してくれ」
「そうじゃないの、あれはあたしがしたの」
「おめえがしたって、なにを」
「読めないように邪魔をしたのよ、だってあんたに般若心経なんか読まれたら、あたし成仏しちゃうじゃないの、成仏すればゆくとこへいっちまって、もうあんたに逢えなくなるわ」
「へえ――成仏するのかい、お経を読むと」弥六は妙な顔をした、「だっておめえ、慥かしんにゅうとかしんべえとかいうもので、どんな偉え坊主が供養してもうかばれねえって」
「いやあねえ、しんにゅうだのしんべえだのって。しんい、瞋恚っていうのよ、そして名僧智識じゃだめだけれど、あんたのような身内の者に供養されるとうかばれるのよ」
「危ねえなあ、そいつあ」彼は少しばかり、ぎょっとした、「そいつあ、うっかりできねえ、ここでうかんじまわれちゃあ、たいへんだ」
「それでも、あんたが鉦を叩かなかったから、よかったのよ、鉦を叩けば仏さまが出て来るから、そうすればお経の邪魔をすることが出来なかったの、あたし本当にひやひやしたわよ」