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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
二十三
そして、丁度その時、まるで申合せでもした様に、打上げられた花火の、巨大な金色の花瓣は、クッキリと黒天鵞絨の空を区切って、下界の花園や、泉や、そこにもつれ合う二つの肉塊を、ふりそそぐ金粉の中にとじこめて行くのでした。千代子の青白い顔、その上に流れる糸の様に細く、赤漆の様につややかな、一筋の血のり、それがどんなに静にも美しく見えたことでしょう。
二十三
人見廣介がT市の菰田邸に帰らなくなったのは、その日からでした。彼は全くパノラマ国の住人として――この物狂わしき王国の君主として、沖の島に永住することになりました。
「千代子はこのパノラマ国の女王様だ。人間界へは決して二度と姿を見せないだろう。お前はこの島にある群像の国を見ただろうか。時として千代子は、あの目まぐるしく林立した裸体像の一人になりすましていることもあるのだよ。そうでない時には海の底の人魚か、毒蛇の国の蛇使いか、花園に咲き乱れた花の精か、そして、その様な遊びにも飽き果てると、この壮麗な宮殿の奥深く、錦のとばりに包まれた、栄耀栄華の女王様だ。この楽園の生活を、どうして彼女が好まないことがあろう。彼女は丁度昔話の浦島太郎の様に、時を忘れ、家を忘れてこの国の美しさに陶酔しているのだ。