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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

十二

この驚くべき境遇の変化は、彼を無上に嬉しがらせたことは申すまでもありませんが、その感じは、嬉しいというよりは、一そ馬鹿馬鹿しく、馬鹿馬鹿しいというよりは、何となく胸がからっぽになった様な、雲に乗って飛んでいる様な、夢を見ている様な、一方では限りなき焦燥を感じながら、一方では落付きはらっている様な、何とも形容の出来ない心持でありました。

こうして、彼の計画は着々として進むのでしたが、悪魔は、彼の予期し防備していた側には現れないで、その裏の、流石の彼もそこまでは考えていなかった方面に、おぼろな姿を段々はっきりさせながら、じりじりと、彼の心に喰入って来るのでありました。

十二

あらゆる款待の内に、満悦の旅を続けながらも、廣介は、ともすれば、恐れと懐しさの入混った感情で、邸に残した千代子の姿を、心に思い描くのでした。あの泣きぬれた生毛の魅力が、悩ましくも、彼の心を捉え、私かに覚えた、彼女の二の腕のほのかなる感触が、夜毎の夢となって、彼の魂を戦かせるのでありました。

千代子は源三郎の女房であって見れば、彼女を愛するのは、今や源三郎となった廣介にとって当然の事でもあり、彼女の方でも、無論それを求めているのでしょうが、その様に易々と叶う願いである丈けに、廣介にとっては、一層苦しく悩ましく、一夜の後にどの様な恐しい破綻