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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
一体島の人達は、数人の男女を除いては、千代子の顔をはっきり見知っている者もなく、ふと行きずりに女王様のお姿を見たところで、それが果して本当の千代子かどうかを見分ける力もないのでした。
斯様にして、殆ど不可能な事柄がなしとげられたのです。廣介は菰田家の限りなき財力によって、あらゆる困難に打勝ち、凡ての破綻を取りつくろうことが出来ました。今まで貧乏だった親類縁者が忽ちにして俄分限となり、みじめだった曲馬団の踊子、活動女優、女歌舞伎達は、この島では日本一の名優の様に好遇され、若い文士、画家、彫刻家、建築師達は、小さな会社の重役程の手当を受けているのです。仮令そこが恐しい罪の国であったとしても、その人達にどうしてパノラマ島を見捨てる勇気がありましょう。
そして、遂に地上の楽園は来たのでした。
類を絶したカーニバルの狂気が、全島を覆い始めました。花園に咲く裸女の花、湯の池に乱れる人魚の群、消えぬ花火、息づく群像、踊り狂う鋼鉄製の黒怪物、酩酊せる笑い上戸の猛獣共、毒蛇の蛇踊り、その間をねり歩く美女の蓮台、そして、蓮台の上には、錦の衣に包まれたこの国々の王様、人見廣介の物狂わしき笑い顔があるのです。