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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

「君は北見小五郎とか云ったね、僕が行く所には、いつでも君がいるというのは、少しばかりおかしい様に思うのだが」

すると、憂鬱な小学生の様に、ボンヤリと円柱に凭れていた相手は、青白い顔を少し赧らめながら、うやうやしく答えるのです。

「イエ、それはきっと偶然でございましょう。御主人」

「偶然? 多分君の云う通りなのであろう。だが、君は今そこで何を考えていたのだね」

「昔読んだ小説のことを考えて居りました。非常に感銘の深い小説でした」

「ホウ、小説? なる程君は文学者だったね。して、それは誰の何という小説なのだね」

「御主人は多分御存じありますまい。無名作家の、しかも活字にならなかったものですから。人見廣介という人の『RAの話』という短篇小説なのです」

廣介は突然昔の名前を呼ばれた位で驚くには、余りに鍛錬を経ていました。彼は相手の意外な言葉に、顔の筋一つ動かさないで、そればかりか、はからずも、彼の昔の作物の愛読者を見出した、不思議な喜びをさえ感じながら、懐しく言葉を続けるのでありました。

「人見廣介、知っているよ。お伽噺の様な小説を書く男であったが、あれは君、僕の学生時代の友達なのだよ。