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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
それらの人が、皆声をひそめ、跫音を盗んで、さも心配相にふるまっているのが、廣介にしては、馬鹿馬鹿しく、滑稽に見えて仕様がないのです。彼は、これまでしかつめらしく考えていた世の中というものが、まるでたわいのない、子供のままごと遊びに類似したものであることを痛感しないではいられませんでした。自分丈けが非常に偉く見えて、外の菰田家の人達は、虫けらの様に下らなく、小さなものに思われるのでした。「ナアンだ、こんなものか」それは寧ろ失望に近い感じでした。彼は、この経験によって、古来の英雄とか、大犯罪者などの、思い上った心持を、想像することが出来た様に思いました。
併し、その中にも、たった一人、多少薄気味が悪く、苦手とでもいうのでしょうか、何となく彼を不安にする人物があったのです。それは、外でもない、彼自身の細君、正しく云えば亡き菰田源三郎の未亡人でありました。名前は千代子といって、まだ二十二歳の謂わば小娘に過ぎないのですけれど、色々な理由から、彼はその女を恐れないではいられないのでした。
菰田の夫人が、まだ若くて美しい人だことは、以前にもT市へやって来て、一応は知っていたのですが、それが、毎日見ているに従って、俗に近まさりと云う、あの型に属する女と見え、段々その魅力を増して来るのです。