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ヨブきこうえん

ヨブ記講演

内村 鑑三

丸の内の大日本私立衛生会館における内村聖書研究会においてのヨブ記講義、1920(大正9)年4月25日~6月27日、9月12日~10月10日、10月24日、11月21日、12月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 92,828 字 · 185 页

青空文庫

かかる人が今日我らの間にあらば社会はこれを完き人と見教会はこれを完全なる信者と見るであろう。しかしながら聖書の立場より見れば、ヨブの完全は絶対の完全にあらず、更に完全なるを要する完全であったのである。これヨブ記に現われたる悲劇の生ずるゆえんである。

◯この完全なるヨブの生涯もまた完全であった。「その生める者は男の子七人、女の子三人」という完全なる家庭であった。「その所有物は羊七千、駱駝三千、牛五百、牝驢馬五百、僕も夥しくあり」というほどの富の程度であった。そしてその家庭は夫婦兄弟姉妹相和して平和漲るの状態にあり、殊にヨブがその子の教育において誤らず、祭壇を設け自ら祭司の職を取りて子女の赦罪のため燔祭を献ぐる如き、すべてが完全の状態であった。すなわち富足り、家栄え、家訓行われ、敬神の念盛なりというべき有様であったのである。

◯試みにヨブを今日の社会に立たせてみよ。その富は何百万、外に出でては多くの有力なる会社の社長あるいは重役たり、内に在りては子女の教育において全く、牧師の任に当りて過たざる人たるであろう。不幸にしてわが国にこの種の人は殆んどない。富者は多けれども神を畏るるの信仰なきは勿論、わが生みし子をすら治め得ざるもの比々皆しかりである。