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かずえはいそがしい
主計は忙しい
山本 周五郎
「奇譚」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页
――いまも井上という上位の門人と立ち合っているが、躰の構え足の踏みかたが異様である。慥かになにか法外れな手を案じだしたらしい。主計は眉をしかめると、声をあげながらそっちへずかずか近寄っていった。
「ちょっと厳しそうじゃないか、井上には無理だ、おれが代ろう」
「――厳しそうだって」平之助は竹刀をさげてこっちを見た、「――そんなことがあるものか、ほんのちょっとしたくふうだよ」
「みせて貰おう」
「いいけれども、やるなら胴を着けてくれないか」
平之助はこう云って唇で笑った。自分より上を遣うものに胴を着けろと云うのは、それだけの自信があってのことだろうが礼儀ではない、寧ろ傲慢ともいうべきで、こういう修業をする者としては、極めて不心得な態度である。主計はそれならと云って、すなおに胴を着けた。
二人は位取りをした。互いに中段である、ごくあたりまえな中段にとって呼吸五つばかり、後ろへひいた主計の右足の踵がすっと僅かに浮いたが、同じ刹那に平之助の竹刀が弧を描いて左から主計の腰を斬り上げた、もちろん軽い手である、しかし斬り上げた竹刀はそのまま電光のように返って主計の逆胴をはっしと斬って取った。